あるデイサービス。
ここは地域密着型といいますか、利用者同士が近所だったり、昔ながらのお知り合いだったりします。
農村部に位置するので田植えが終わった今は蛙の大合唱がきこえてくる、そんなところです。
参加者は6人、今日の会話の中心はKさん、Tさん、Nさん、Aさん、いずれも大正生まれの女性です。
いつも、歌を歌いながら、歌にまつわる話をしますが、今日はとても話がはずみました。
今は雨の季節、雨の歌をたくさん歌いました。
《雨》「雨が降ります 雨が降る 遊びに行きたし傘は無し 紅緒の木履(かっこ)も緒が切れた」
Kさん 「子どもの傘はよく破けたんだよ」
私 「傘が破けたんですか?」
Kさん 「そうだよ。学校行く時、桑畑なんか通ると、桑ってのは枝が横に伸びてるだろ?枝に当ってすぐに破けちゃうんだよ」
私 「破けたらどうするんですか?」
Kさん 「しばらく我慢するんだね(笑)」
なるほど、傘が無いなんてよくあることだったんですね。
《雨降り》「雨 雨 降れ降れ 母さんが じゃのめでお迎えうれしいな」
Nさん 「じゃのめってのはね、裏から見ると綺麗なんですよ」
Kさん 「昔は傘は大事だったからね」
Nさん 「お嫁に行く時はじゃのめを持って行ったんです」
へえ、嫁入り道具に蛇の目傘ですか。今は使い捨ての時代、世の中随分かわりました。
その後のお茶の時間にも花嫁道具の話ははずみました。花嫁道具、他には「たらい」(赤ちゃんの産湯やおむつ洗いに使います)、「張り板」(浴衣は縫い目をほどいて布にして、洗って糊をつけてこの板にピンと張って干します、アイロン要らずです)、「蚊帳」なんて変わったものもありました。
《雨降りお月》「雨降りお月さん 雲のかげ お嫁に行くときゃ誰と行く ひとりでから傘さして行く から傘ないときゃ誰と行く シャラシャラシャンシャン鈴つけた お馬に揺られて濡れていく」
私 「皆さんはお嫁に行くときは馬でしたか?」
Nさん 「(笑)昔はね、りんたくってのがあったんですよ」
Tさん 「人力に乗れる人はお大臣、私たちはりんたくですよ」
私 「りんたくってなんですか?」
Kさん 「リヤカーみたいなのを自転車で引っ張るんだよ。乗り心地は悪いよ」
Aさん 「昔は砂利道でしたからね~」
Kさん 「坂道になると運転手は自転車を降りて引っ張るんだ(笑)」
歩くのは当たり前の時代だったのですね。ちなみにTさんは、お嫁に行くときの条件として自転車を買ってもらったのだそうです。「実家まで帰るのに歩いたら1時間かかるからね。でもそうは帰れなかった」
このほかにも、薪で焚く風呂、わら打ち、蚕・・・いろいろなお話しを聞きました。
当時の人は、今の私たちでは到底耐えられないようなことを辛抱して暮らしを支えてきました。
今の繁栄はこの方々のおかげです。
高齢のかたは、自分のことをあまり語りたがりません。
しかし、歌うことによって、こんな貴重な話を聞くことができます。
回想では、「いつも参加者の心に寄り添い、その暮らしや生活や考えを肯定すること」が一番大事なことです。
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